金属試料片を作製する最終工程で、金属組織検査用の研磨と同様に琢磨を行います。金属組織検査用の琢磨の目的は、その前の作業工程(切削と切断)で生じた歪みを修正することです。以下に、試料片の作製工程における一般的な注意事項を説明します。
金属組織検査用の琢磨は幾つかの段階に分かれ、次の段階に進むほど使用する研磨剤の粒径が小さくなります。一般に、この工程は予備琢磨、中間琢磨、最終琢磨の3段階に分けられます。
金属組織検査用の琢磨では、金属材料の微細構造組織が現出するように、試料面を傷や変形がなくなるまで鏡面状に琢磨します。精密な琢磨成果を得るためには適切な消耗品と研磨機を使用し、(消耗品に最適な)試料作製方法と機器設定を選ぶ必要があります。
金属組織検査解析用の最先端研磨装置の世界有数のメーカーであるQATMでは、手動式から完全自動式の研磨装置まで幅広いモデルを取り揃え、高品質の研磨消耗品の製造と供給を手がけています。QATMアプリケーションラボは金属試料片の作製に数十年の経験をもち、これまでに数千以上の試料を作製してきました。この経験を是非、御社のアプリケーションにお役立てください。
金属組織検査用の予備琢磨の目的は、最短時間でできるだけ効果的に材料を除去することにあります。研磨工程の後に優れた平坦な研磨面を得るためには、ダイヤモンド砥粒を常に流動させ、できれば回転させ続けます。砥粒の回転運動により、余分な材料が除去されます。
使用する消耗品:ダイヤモンド15 µm ~ 9 µm / 硬織布または硬質不織布
金属組織検査用の予備琢磨が終了すると、通常は次に金属組織検査用の中間琢磨を行います。この段階で変形とスミア層を除去します。材料が非常に硬い場合は、中間琢磨のステップを繰り返す必要がある場合もあります。
使用する消耗品:ダイヤモンド9 µm ~ 3 µm / 硬織布または薄手フリース布
金属組織検査用の試料を作製する仕上げ工程として最終琢磨が行われます。これで変形だけでなく、特に試料面のスミアを取り除きます。このスミアの除去は難しいので、注意を要します。ただし、すべての金属組織検査試料の琢磨で最終琢磨が必要なわけではありません。
使用する消耗品:ダイヤモンド3 µm ~ 0.5 µm / 酸化物砥粒0.1 µm ~ 0.06 µm/ フリース布またはフロック加工布、発泡性の酸化物懸濁液
金属組織検査用の最終琢磨は、以下の二つに大別されます。すなわち、ダイヤモンド砥粒による純粋に機械的な材料除去と、弱アルカリ性の仕上げ研磨懸濁液による化学機械的な材料除去の二つです。使用事例ごとに、適切な研磨剤を選んで使用します。
金属組織検査用に使用されるダイヤモンド研磨液では、含有されるダイヤモンドの形状により研磨剤の種類が異なります。ダイヤモンドには多結晶ダイヤモンドと単結晶ダイヤモンドがあります。多結晶ダイヤモンド粒子を含有する研磨剤は、単結晶ダイヤモンド系の研磨剤に比べて顕著なメリットがあります。多結晶ダイヤモンドは粒子形状が均一で、鋭利なエッジが多いことが特長です。同時に作用する砥粒エッジの数とサイズにより、ダイヤモンド研磨剤による材料除去率が決まります。ダイヤモンド研磨または琢磨のために適切な(単結晶または多結晶の)研磨剤を選択するには、予め加工要件を明確にする必要があります。低コストの単結晶ダイヤモンドでも良好な琢磨結果を得ることは基本的に可能ですが、その分だけ手間がかかります。
ダイヤモンド研磨剤はキャリア材料の種類によっても違いがあります。以下の3つのキャリア材料が一般的ですが、そのうちどれを選択するかは使用状況により異なります。
ダイヤモンドペースト:研磨布に塗布したときの砥粒濃度が高いため、必ず潤滑剤を足す必要があります。
ダイヤモンド懸濁液:研磨布に均一に分散します。放置時間が長くなるときは、分離しないように注意します。
ダイヤモンドスプレー:研磨布に均一に分散します。必ず潤滑剤を足す必要があります。一度に使用する用量が多いため、目減りが早いという欠点があります。
金属組織検査用の最終琢磨には、主に酸化物研磨剤が使用されます。
酸化物研磨剤には、二酸化ケイ素懸濁液と酸化アルミニウム懸濁液の二種類があります。いずれも水性ないしアルコール性懸濁液として市販され、調合せずにそのまま使用できます。粒径0.1 µm~0.06 µmの懸濁液が使用されます。
懸濁液の使用方法についての細かい決まりはありません。しかし、腐食しやすい試料片にはアルコール系懸濁液の使用をお勧めします。
二酸化ケイ素:あらゆるオーステナイト鋼、アルミ合金、チタン合金、貴金属合金
酸化アルミニウム:黄銅、低合金鋼から非合金鋼、ねずみ鋳鉄クラスまで
酸化物研磨剤を使用した機械的除去または化学機械的除去により、金属組織検査用の予備琢磨後も残っているスミアと変形層が取り除かれます。この工程により良好ないし極めて良好な試料面が得られます。また、このような「ダブル攻撃」により、琢磨時間を短縮できます。ダイヤモンド研磨剤に比べてコストを大幅に抑えられるのも、酸化物研磨剤のメリットです。
金属組織検査用の琢磨のために、各種の表面構造や素材(絹、レーヨン、毛織物、フェルト生地、発泡樹脂など)の研磨布が用意されています。
ダイヤモンド入りの特製研磨円板もあります。
金属組織検査用の予備琢磨には、潤滑剤の他に、弾性の低い(硬い)布を使用するのが普通です(鋭利なエッジを維持するために、衝撃吸収弾性の小さいものを使用することが重要)。柔らかすぎる琢磨布で縁だれしてしまうと、薄い試料片などでは解析に支障を来します。
最終琢磨の段階では、より弾力性のある毛羽だった布に切り替えます。
中間琢磨用の研磨布には、予備琢磨用と最終琢用の中間の弾性が求められます。
金属組織検査用の振動琢磨により、歪みやすい材料でも変形や傷がほとんどなくなるまで加工できます。振動琢磨は、特にEBSD解析用試料の加工に適しています。
金属組織検査用の振動琢磨では、作業面の振動によって試料と研磨パッドが擦れ合うことで琢磨が行われます。作業面をまず縦方向に振動させ、さらにねじり振動を加えます。これら二つの振動を組み合わせることにより、荷重で押し付けられた試料片が研磨盤で円軌道を描きます。
金属組織検査用の振動式研磨機Qpol Vibroは、振動させる質量に基づいて、研磨布で動かす試料片に最適な振動数を自動的に検出します。これは衝撃性が極めて低い材料除去方法なので、軟性と延性が非常に高い材料(銅または銅合金、アルミまたはアルミ合金、ニッケル系材料、軟鋼など)に特に適しています。ただし、衝撃性が低いということは、研磨による材料除去率も相応に低くなるので、琢磨に30分以上もの時間を要する場合もあります。
金属組織検査用試料の作製において、研磨と琢磨は一般的に用いられる加工方法です。ほとんどあらゆる材料の加工方法について、専門的な知見が揃っています。それでも発生し得るエラーの原因に配慮しながら、適切な手順を選択する必要があります。多段階にわたるワークフローのため、特に手作業での加工には時間がかかります。その一方で、自動化の度合いを高めるには、比較的大きな設備投資を覚悟する必要があります。
また、場合によっては次のリスクを評価しなければなりません。
研削・研磨装置の市場は細分化しており、用途ごとに多様なソリューションが揃っています。用途や容量に応じて、シンプルな半手動式から全自動式のものまで研削・研磨装置には様々な種類があります。アプリケーションの多様性を考えれば、それはもっともなことです。研削・研磨用の消耗品を慎重に選び、試料作成パラメータを適切に設定することで、ほぼどのような材料でも良好な成果が得られます。特に、セラミック、複合材料、充填・強化プラスチックの試料の作製に適しているのは、機械的な研削・研磨技術だけです。
以下に、参考までに研削と研磨のヒントをいくつか示します。
金属組織検査用の琢磨において手動または個別荷重で試料を作製すると、ペンシル条痕が発生することがよくあります。中心に向けて試料面に勾配が付いているので、画像からは研磨面に特殊なパターンが刻まれているのが分かります。単独に押し付けて加工される試料片に起きやすい問題です。
その原因として以下が考えられます。
サンドペーパーに含有された炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド研磨剤に含有されたダイヤモンド、または酸化物研磨剤に含有された酸化物など、金属組織検査やその他の目的に使用される研磨剤(研磨材)は、金属組織検査用の試料片の作製時に試料面に圧着します。
たとえば以下の場合に、そのような圧着が生じます。
金属組織検査用の試料片の加工品質は、研磨方向によっても影響を受けることがあります。画像の左側にある試料は、鋼試料から埋込材に向かって砥粒が材料を研磨するようにSiCペーパーに保持して手動で加工されたものです。その結果、脆弱な窒化層が埋込材の隙間に隈なく押し込まれ、破損が生じています。
試料の向きを回転させることで、この問題は解決しました。これは、元々、埋込材から試料に向かって研磨すべきところです。画像の右側はこの問題を改善した試料片ですが、違いを明確にするために研磨途中の状態になっています。
DIN 30902:2016-12(鉄鋼材の熱処理 – 窒化および浸炭窒化ワークピースの化合物層の厚みと多孔性の光学顕微鏡測定)では、試料をマウントする前にアルミホイルまたは銅フォイルで包み、試料作製中の化合物層を保護することを推奨しています。
下記の左画像では、規格に基づいた試料(画像中の左側)とラップしなかった試料(画像中の右側)を示しています。右画像は、金属組織検査用に同じように研磨するためにそれぞれの試料を研磨機にセットした状態を示しています。
組織解析結果のうち上側の画像では、化合物層の厚みが不均一で、大きな欠けが生じていることが分かります。一方、下側の画像に示された化合物層は厚みが均一で破損もなく、信頼性の高い解析を可能にします。化合物層の上にある、厚みのある白い層はアルミホイルなので、それを誤って解析しないよう、注意してください。
QATMでは手動式から完全自動式の研磨システムまで幅広い最先端の装置を取り揃えています。また、別売の研磨消耗品は、厳格な試験によりQATM装置への高い適性が確認されています。製品のお問い合わせやお見積もりのご依頼は、お気軽に。各種のアプリケーションに詳しい専門家が対応させていただきます。